2025年秋、『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』のエンディングとして公開されたBUMP OF CHICKENの新曲「I」。
藤原基央さんの繊細な歌詞とサウンド構成が話題を呼ぶなか、ある一点がファンの間で注目を集めています。
それは、サビ部分でふっと鳴る「トンッ」という小さな音。
イヤホンで聴くと特に印象的で、曲全体の中でその一瞬だけ空気が変わるように感じるのです。今回は、その“トンッ”音が持つ可能性を、音響・演出・歌詞の視点から考察します。
「I」で鳴る“トンッ”とはどんな音か?
サビに差しかかる直前、あるいはサビ中に一瞬だけ響く低く深い音。
キック(バスドラム)より控えめで、スネアのような高域成分もない。
あえて空間の余白にポツンと置かれたような、“息の止まる”瞬間の一打です。
BUMP OF CHICKENは「ray」や「話がしたいよ」でも、環境ノイズやリバーブを意図的に残すことがあります。
そのため「I」の“トンッ”音も、リズムではなく感情のアクセントとして配置された音である可能性が高いです。
音ではなく“瞬き”の表現としての一撃
歌詞の冒頭にはこう書かれています。
時間がない ここは命の瞬きの中だ
この“瞬き”という言葉が、この曲全体のテーマを象徴しています。
光が消えてまた灯る、その一瞬の切り替わり。
「トンッ」という一音は、まさにその“瞬間”を音で表しているのではないでしょうか。
藤原さんの楽曲は、言葉と音を同列で配置する作曲法が特徴です。歌詞で「命の瞬き」と言いながら、音でも“瞼が開く一瞬”を描いている。
これはBUMP OF CHICKENらしい構成的演出だと言えます。
「I=僕=eye(目)」の物語的構造
音の意味を考えるうえで重要なのが、「I」というタイトルの多重構造です。
noteで公開された「第二宇宙速度(E.V)」さんの試論では、
「I」は“僕”であり、同時に“eye=目”、さらには“Hero(H)”の前に立つ存在として読めると指摘されています。
「I」はヒーロー=Hの後ろから前に立つ。
それは、かつて守られていた自分が今度は守る側に立つという変化。
この構図を踏まえると、“トンッ”音が入るタイミングは、「I=僕」が「H=ヒーロー」へと視点を切り替える瞬間――
つまり、“視線の移動”や“覚醒”を象徴する一音として機能している可能性が浮かびます。
音響的に見た“トンッ”の正体
録音・ミックスの観点から見ると、
“トンッ”音は以下のような音源に由来している可能性があります。
いずれにしても、ミスではなく「選ばれて残った音」であることは確実です。
最新のBUMP作品はPro Toolsによる精密なトラック構成で仕上げられており、無意味なノイズがそのままマスターに残ることはありません。
“視点の転換”を知らせるサインとして
曲全体の文脈で見ると、「I」は“見る”ことと“見られる”ことの交錯を描いています。
ああ 一度だけでいい
本当の本当が見たいよ
この歌詞のあとに響く“トンッ”は、「見る側」から「見られる側」へ、そしてまた「見る側」へと視点が移るタイミングを知らせる“サイン”のようにも感じられます。
BUMPのサウンドには、そうした「誰が話しているのか」を音で提示する仕掛けがしばしば登場します。
「I」もまた、その一環として設計されたのかもしれません。
同じ手法が見られる過去の楽曲たち
「ray」―電子ノイズ=“未来への光”
BUMPの代表曲のひとつ「ray」では、サビ前後にわずかなクリックノイズのような電子音が入っています。
この音は、リズムとして機能するだけでなく、“過去と未来をつなぐ光の点滅”を示すように配置されています。
“トンッ”と同じく、曲のテーマ(光・誕生)を音で語る構成です。
「話がしたいよ」―息づかい=“言葉にならない距離”
この曲では、藤原さんのボーカルの後ろでわずかに空気や衣擦れの音が残されています。
普通はカットされる要素をあえて残すことで、話したくても話せない距離感を表現。
「I」の“トンッ”が“命の瞬き”を象徴するように、こちらは言葉の呼吸を音で描いています。
「アカシア」―シンバルの余韻=“見つけ合う瞬間”
『ポケモン』とのコラボ曲「アカシア」では、フレーズ直後に残るシンバルの長い余韻が“見つける/見つけてもらう”関係性を象徴。
“音が消えない=関係が続く”という構造が、「I」の視点転換と響き合います。
「プラネタリウム」―ノイズ混じりのエレピ=“記憶の曖昧さ”
序盤のエレピ(エレクトリックピアノ)はわざと少しザラついた質感。
このノイズ感が記憶の中の情景の曖昧さを表しています。“完璧ではない音”を残すことで、“人間らしさ”を描く。
「I」の“トンッ”もこの手法の延長線上にあります。
「カルマ」―無音の一瞬=“存在の空白”
「カルマ」ではサビ前にすべての音が止まる“無音”の瞬間があります。
このブレイクが、自己と運命の断絶点を象徴。
「I」の“トンッ”が“目を開く瞬間”なら、「カルマ」は“目を閉じる瞬間”。
BUMPは“鳴らす”だけでなく、“鳴らさない”ことで物語を語るバンドです。
ライブでどう再現されるか
今後の注目は、2026年秋に予定されているBUMP OF CHICKENアリーナツアーで、この「I」がどのように再現されるか。
バンドサウンドの中であの一瞬の“トンッ”が再び鳴るのか、あるいはトラック再生によって空間的な演出として響くのか――。
もしライブでも同じ位置にその音が存在すれば、それが“偶然ではなく演出”であることがより明確になります。
こうした視点で追うと、「I」の物語は今後さらに展開していくはずです。
まとめ
結論として、「I」で聴こえる“トンッ”音は、編集ミスではなく、命の“瞬き”と視点の転換を象徴する演出音だと考えられます。
歌詞と構造、そして“見る”というモチーフを貫くBUMP OF CHICKENの哲学が、わずか一音の中に凝縮されている――。
それは、ただの打音ではなく、“世界が変わる瞬間”を刻むサウンド。まさにBUMPらしい、静かな衝撃の一拍です。

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